7月の文学館
大正4年、蘆花先生は、奥様と共に「黒い目と茶色の目」を書き上げました。
この際、奥様は無理がたたり大病を患ってしまい、約10か月もの間、闘病していました。そんなときに主治医から療養に伊香保を薦められたのです。
6月末から7月末までの間、初めての伊香保での夏を過ごした蘆花先生は、その時のことを次のように記しています。これが伊香保5度目の逗留となりました。
「雷はお嫌いですか。」と禪僧の問答見たやうに問ひかけました。「左様。別に好きでもありません。」と私は答へました。「尤も好きな人もいないでせうが」と博士は笑ふて、雷が夏はひどいが病後の静養は伊香保が好からうと勸めてくれたのでした。
願ったり叶ったりです。退院の翌々日、私は妻と、最初から一人で看護してくれた順天堂病院の小山かく子さん、及女中二人を連れて、五度目で伊香保に行きました。而して昨秋居た二の段の別荘に入りました。去年私の肥滿に驚いた主婦は、今幽靈のやうな妻の病上がりを見るなり、「まあお瘠せ遊ばして」と泣き聲になりました。
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